ひも理論(02.07.05) 98

相変わらず不要な序文

雑文書きという奴を二種類に分ける方法の一つ。基本的にノンフィクションで書くか、フィクションで書くか。私は基本的に後者に属するようになった人間なのだが、ごくたまに前者に属することを書きたくなることがある。 要は「ネタになる」という体験をしたときだ。

そういうときには2つの方向がある。体験したときの臨場感を生かすため、即文章に仕立て上げてしまう。これは空回りの危険も伴う諸刃の剣だが、とりあえず本人が満足しやすい。もう一つの方向がネタとしてため込んで、消化できてからネタに組み込むことだ。文章としては安定するが、爆発力に欠けやすい。

この文章がどちらかなのかは知らないし、そもそもフィクションである可能性は充分にある。

そして転んでみた

私はくつひもという奴が上手く結べない。一見結べているように見えるのだが、私がむすんだくつひもは必ず反乱をおこし、ほどけてしまうのだ。そしてだらしなくひもを引きずって歩くことになる。何回か結びなおすと、偶然ほどけずに安定することがあるのでよりたちが悪い。

くつひもがほどけているというのはわたしの感覚以上にまわりの意識を引きつけるようで、「くつひもほどけてるわよ」という冷たい指摘を受けることは少なくない。私としても結び直すことにはやぶさかではないので、なんとか結ぶ。しかし10分後には、同じことをまた言われることになるのだ。

正直なところ、「ひもの結び方」をきちんと学べばほ大丈夫な気もするのだが、「ま、だらしないだけだし」という情けない割り切り方をしていた。先日までは。

事件は千葉県で起こった。千葉県のとあるビルで、買ったばかりの「 ジョジョの奇妙な冒険」の最新刊を読んでいたときである。なお、私はジョジョの熱烈な支持者ではない。ジョジョという単語に過剰に反応する人がおおいというので念のため警告させていただく。話を戻そう。

事件はエスカレータで起こった。エスカレータからおりたときに、引っ張られたような感触。振り向くと下では、くつひもがエスカレータに巻き込まれていた。ひもはなかなか強靱で、引っ張る程度ではどうにもならなかった。

おろおろしているうちに他の人もエスカレータからおりてくる。出口付近で止まっている私は非常に邪魔で、事情を理解してもらえない方から、多くの舌打ちや罵倒をいただいた。全く千葉は怖いところである。

こういうとき、十徳ナイフを持ち歩く習性があったらよかったと真剣に考えたのはここだけの秘密だ。

近くの店員に助けを求めるなどの選択肢は頭に浮かぶのだが、実際の私はただひたすら助けを求めるような目つきでおろおろするだけであった。靴を脱ぎ捨て、店員の元に向かってはさみを所望する、というのが一番スマートな解決だとは思うのだが、片方くつがない人間が「はさみをかしていただけないでしょうか。くつひもがエスカレータに飲まれてしまってからんでいるんです」という光景をシミュレーションすると、どうも迅速に行動できなかった。

結局そういう光景を助けてくれたのはエスカレータから降りてきたお姉さんである。事情を察して話しかけてくれたので、「申し訳ないですが、そこ(ちょっと遠く)の店員のかたにはさみをかりてもらえませんか」と私から申し出た。スムーズにはさみを借りることができ、靴ひも数センチの尊い犠牲のもと、無事に私の靴は救出された。ありがとう、お姉さん。

※お姉さんという表現は非常にやましいのだが、ここは助けてくれた方の顔を立てておこう。って、これを書いた時点でだめじゃん。

解放された私は駅に向かったのだが、そこでたむろしていた学生が、「さっきエスカレータでくつひもかまれてた奴いたじゃん」という発言をしていたのは、あまりにもできすぎな気分であった。

分析と反省

それにしてもくつひもがエスカレータに飲み込まれるというのは相当に意外な事故であった。実際、くつひもがエスカレータに飲み込まれるためには、くつひもは相当綺麗な向きでないと行けないだろう。先端がまっすぐエスカレータに向いていないと厳しそうだ。

それだけではなく、エスカレータから降りる足の動作が、有意に遅くないとくつひもがかむ前に足があがってしまうだろう。

ざっと考えて、許されるくつひもの向きはの許容範囲前後に10度、20度くらいであろうか。この確率が20/360。後者の推定はなかなか難しい。想像あるいは実践してもらうとわかるが、くつひもが飲まれるほど遅く足を持ち上げるのはなかなか難しい。意識的に行うのはかなり困難だ。こういう状況がおきうる背景としては、本や音楽などに没頭していて、「エスカレータ」いう環境を忘れてしまうなどの外的要因が必要である。

しかしそれでも無意識に移動はするものだから、ものすごく高く見て1%くらいであろうか。

こう考えると、「くつひもがほどけたままエスカレータにのると1800回に一回くつひもがかまれる」という結論となる。どうやら相当に運が悪かったらしい。

こうして学習しない理由をみつけてしまうのだ。私という人間は。


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