第74回「とある占い師の想い」(2001.07.05)

「お名前をお聞かせいただけますか?」
「言いたくないんだけど、ダメ?」
「そうですね……私は言霊をつかいます。貴方の名前を
 語りかけながら、水晶玉に念をこめていきます。
 水晶玉に語りかけるときに、「この方」では力がこめられませんね。
 お名前だけでもよろしければ」
「そうね……ユッケにでもしといてちょうだい」
「ユッケさん……ですか」
「昔のあだ名よ」

この程度で集中できないようではプロではない。
――ということは、私はプロではないのだろう。

「お名前をお聞かせいただけますか?」
「シンジです」

男の人で名前だけを言うのはとても珍しい。初めてかもしれない。
女の人で名前だけを言う人は少なくない。
いずれにしても、姓名判断というものがあるからだろう、フルネームを言う人は多いし、漢字表記まで伝えてくれることも珍しくない。

私の場合、名前は念を込めるための記号にすぎない。その記号として私が認知できれば問題はない。本来、水晶玉のみのスタイルであれば、「あなた」でも問題はないのだが、「あらゆる偶然という確率を乗り越えてここに面と向かって座っているあなた」について水晶玉に語りかけるときには弱い気がして、名前で語ることにしている。

「シンジさん、ですね」

ちょっと気恥ずかしかった。


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