みんな消えてしまう(02.04.23) 92

例によってどうでも良い序文

独裁スイッチというものがある。漫画「ドラえもん」の秘密道具だ。「○○、消えてしまえ」というと対象の相手がいなくなってしまう、という恐るべき道具だ。この道具を前にして、のび太は「みんな消えてしまえ」と言いながらボタンを押した。

もちろん最終的にそれなりの解決はなされるのだが、この孤独感は並ではなく、独裁スイッチという道具の名前は忘れられないほど強いインパクトがあった。

藤子不二夫は孤独を書くのが上手い。同じドラえもんの秘密道具の中に、石ころぼうしという傑作がある。こちらは、帽子をかぶるとすべての他人から人間として認識されなくなる。のび太はこれをかぶるが、きつくて脱げなくなってしまうのだ。

私はどうもコミュニケーション要求が薄い人間らしく、半歩間違えるとひきこもっていてもおかしくないような志向をもつ人間なのだが、そういう性格であるとかえって「孤独」を真っ正面から描写されると弱いのかもしれない。

しかし今回はさらにどうでもいい本文

普段の生活。会社に行く。帰る。飯を食う。酒を片手にPCの前。メールを読む。メールを書く。WEBのコンテンツも書く。WEBを眺める。本を買う。本を読む。ときどきゲームをする。たまに楽器なんかも弾く。そんな生活。同窓会の通知が届いた。主催者の顔が浮かばない。それ以前に、主催者の名前を見てもぴんと来ない。

クラスメイトを思い出そうとする。名前が浮かんだのが五人。顔が浮かんだのが二人。愕然とした。同窓会に出れば思い出せるだろうか。別にクラスで浮いていたわけではない。友人もいた。顔も思い出せないが。それなりに楽しんでいた。出席しても良い。是非出席したいということもないが。

妄想する。小説だったら。ここで電話がかかる。今ならメールか。クラスメートから連絡が来る。「どうする?」「うーん。おまえはどうする?」「行っても良いんだけど」みたいな会話があって、結局出かけることになる。

会場にはすごく好みのタイプの女性がいる。意外なことに話しかけてくる。「久しぶりねえ田川君」。しかし思い出せない。「ほら、加藤よ。バスケットやっていた」「ああ、ちゃわんか」

妄想からさめる。思い出した。茶碗。名字が加藤だから、加藤茶、茶さん、ちゃわんだった彼女。彼女の顔が浮かばない。代わりに山盛りのご飯。果たして大食いだったのか。ドカ弁なんか持ってたりして。しかし浮かばない。意外なほどもどかしい。妄想に浮かぶ彼女は鮮明なのに。

中途半端な妄想は気分が悪い。とことん妄想した後の脱力感とどちらがましなのだろう。同窓会に出るかは後で考えることに。サイトのチェックをする。巡回しているサイトのリンク先に一枚の画像があった。売れないアイドル。そのイベント。妄想の彼女が笑っていた。名前は恥ずかしいので書かない。

脱力。同時に不思議な気分。何故ちゃわんなのか。彼女が可愛かったのか。どれくらいまともに話したことがあるのか。今も全く分からない。ほかほかのご飯の映像のみ浮かぶ。もうひとつ。何故あのアイドルを妄想するのか。名前も覚えていなかったのに。アイドル萌え、なんて属性はないのに。これも全く分からない。

ふと気づく。これはネタになる。確信して作文を始める。どう加工するか考えはじめる。その瞬間、同窓会のことも、現実の彼女のことも、頭の中からみんな消えてしまう。

inspired:みんな消えてしまう(original 1 2 3


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