第40回「ノンフィクションは突然に」(99.04.18)

 いつものように自転車に乗って中野に向かう。早稲田通り沿いのコンビニによって買い物をする。ぼけーっとしつつ道路の右側を走る。がっしゃん。

 一瞬何が起こったのかよくわからなかった。ぶつかったらしい。体が前に投げ出される。自転車にすねをぶつける。左に倒れ込む。肘と膝を強く打つ。意識ははっきりしている。骨がおれた感じもない。だが、今無理して起きあがらない方がいい、と妙に冷静な判断。

 「すみません、大丈夫ですか」と焦り気味の声が。スポーツ刈りの高校生である。とりあえずやばい人ではないようでほっとする。なにしろほうけて自転車に乗っていたので、こちらに非がない、とは言い切れないからだ。

 通りすがりのおっちゃんがよってくる。大丈夫か、と。腕を回したり、足を動かしたりしながら大丈夫だと思う、と答える。そういえばこのおっちゃんは何者だったのだろう。

 高校生は平謝りモードである。どうやら細い道からかなりのスピードでつっこんできたらしい。しかし、こちらにも負い目があるし、素直に謝ってくれるなら、何も問題はない。お互い、学校と駅に向かうことにする。

 自転車を転がして行こうとしてびっくり。前輪の軸がひん曲がってしまっていて、車輪が主軸に引っかかってしまい、まっすぐにならなくなっているのだ。これはひどい。これを知ったとき、ぞっとした。いやあ無事でよかった。

 しかし気が動転していたせいか、放置せずに無理をして100メートルほど先の駐輪場まで自転車を運んでしまう。かなりつらかったのだが、なぜかがんばってしまった。運び終えると、きゅうに頭がくらくらしてきた気がする。

 病院に一応行ってみることにした。中野近辺の病院、といってもどこかぴんとこないので、警察に相談してみることにした。

「自転車事故を起こしてしまって、けがをしたようなので、近くの病院を教えていただけないでしょうか」と言った。少なくとも私はそういったつもりである。そうしたら、中野総合病院の場所を教えてもらえたのだが、なんかかんで含めるような教え方をする。

「そこの道をまっすぐ、3分ぐらい歩くと、郵便局があるの、左側に。郵便局。わかる?」
「そう、郵便局。そこを越えて左に曲がって、左、こっち側ね、太い道路、自動車がいっぱい走っている道ね。そこを進むと右側にあるから。」

 素直に話を聞く。私としては郵便局の先、と聞いた時点で、あああれか、とその病院を思い出していたのだが、しつこいまでに親切な説明を素直に聞く。

「ところで、あなたいつから日本にいるの?」

 疑問が一瞬で晴れた。

「いや、わたし日本人です。生まれも育ちも。」

 あせるおまわりさん。

「ああああああ、それは申し訳ない、いや、さいきん日本語のうまい中国人の人、たくさんいるから、いや、悪い意味じゃないんだよ、決して。それにしても最近の外人さんは日本語がうまくて、ねえ、いや、本当に悪い意味じゃないんだよ、気にしなくていいからね。悪い意味じゃないから。」

 わかりやすいまでの狼狽ぶりである。

 というわけで、私は中国人のように日本語がうまい日本人である。

追伸1:とりあえず骨も頭も大丈夫でした。
追伸2:でも体はあちこち痛いの。
追伸3:そんな日に23時まで会社にいたというのがもの悲しい。

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